深夜に鳴った呼び出し音。
それは俺にとって待ち望んだ福音のベルだった。




飛び出して行った夜の街に浮かぶ、頼りなさげな背中を見つけた。
名前を呼ぶと振り返った顔は不安げな表情を見せたがすぐに、俺に向けて微笑んで見せる。
それでも痛々しい涙の跡を隠すことは出来ない。

「ごめん、こんな時間に」

こんなときに別の男を呼び出す自分の卑怯さを自覚しながら、弱々しく笑うが愛しくて堪らない。

「気にするんじゃなか。俺とお前さんの仲じゃろうが」

わざとらしく軽い声を掛ける、そういう風にが感じ取るよう、言葉にする。

「それに、こんな顔したお前さんを夜中に放って置ける筈ないじゃろ」

俺の目線よりも大分下にある、その頭に軽く手を乗せてやると、の無理矢理作り上げた笑顔が見る見る崩れて行く。

「仁王は・・・・・・優しすぎるよ・・・・・・だから私、いつも、仁王に甘えて・・・・・・っ」

俯いたの頭に置いたままの手に力を入れ、腕の中にを呼び込む。

「好きなだけ甘えんしゃい。胸ならいつでも貸す言うたじゃろ」

躊躇うように震える手が俺に縋り付くのを確認すると、の耳元にそっと唇を寄せる。
そうして用意してきた口説き文句を囁くと、小さく、けれど確実に、は首を一度、前に傾けた。

俺の胸に顔を埋めるに、今なら見られんで済むじゃろう。
俺はもうニヤけた笑いを堪えることが出来なかった。


俺の優しさに漬け込んで罪悪感に溺れるを、掬い上げるふりをしながらどんどん俺に嵌らせて行く。


この瞬間のため、せっせと撒いて来た種がようやく実った。
お前さんという花を、俺の腕の中でずっと愛で続けてやるから。
だから今度こそ俺の前で笑って、綺麗に咲き誇ってくれ。
その胸の中で忘れられない誰のことを想っていてもいいから。
後ろめたさなんて1ミリだってあるはずもない。
だって、誰も気づいていないし傷ついていないだろう。


これからも俺はお前にとって優しい男で居続けるから、安心して俺の中で眠りんしゃい。




















140306