こんなにも近くにいるのに
こんなにも触れ合っているのに


どうしてこんなに遠い


お前が俺に向けるのは
怯えた眼差しと、拒絶の言葉だけ


それでもいい





お前が俺の存在を感じていてくれるのなら










耳を塞ぎたくなるような










もう何度目もの小さな身体を押さえ込み
もう何度もの身体に俺の欲望を捻じ込んで来た


その度にお前は


悦びとは違う涙を流し
その愛しい顔を腕で隠し
柔らかな唇を噛み締め


俺とは違う男の名前を呼ぶ


今この瞬間、お前の一番近くにいるのはこの俺なのに


俺の存在を、掻き消すかのように
俺の存在を、全身で否定するかのように



……俺の、俺の名前を呼んでくれ…………」



そんな俺の願いも聞き入れられることはなく


消え入りそうな声で、なおもお前はあいつの名前を呼び続ける
それ以外の言葉を忘れてしまったかのように



「呼べよ、俺を……俺を、見ろよっ……」



俺を見ることを拒む、その腕を無理矢理剥ぎ取ると
透明な雫が零れ落ちる大きな目で、俺の顔を睨んでくる


そんな表情にすら興奮してしまう俺は、お前という名の毒に脳までやられてしまっているらしい


その唇に触れたくて身を屈めると、は顔を背けてそれを拒む



「くそっ……」



どうあっても、受け入れられることはない
苛立ちから、そのままの白い首筋に乱暴に噛み付いた



「やっ……」



発せられた言葉に、拒絶とは異なる色を感じ取ると
俺の浅はかな欲望はまた膨らんでいく


必死に堪えていても、口の端から漏れるその声が
さらに俺を掻き立てる
後はもう我を忘れ
自分勝手な想いを、楔のようにの中に打ち込んでいくだけ


俺は今、確かにと繋がっているのに


この心が重なることは、決してない










己の欲望を全ての中に吐き出すと、今までの行為を詫びるように
そっと彼女の真っ直ぐな髪を梳いた


そんな時でさえは俯いて、顔を背けたままだ







頭をそっと撫でると、の肩が怯えたように揺れる
そんな彼女の髪を一束取り、そっと口付けた


俺は、お前の心も、身体も、声も、涙も、髪の一本一本も、全てが愛しくて
お前の全てをこの手で包みたいと願っているのに


どうしてお前は、俺を見てはくれないんだ









俺には見せたことのない無邪気な笑顔をあいつに向け
俺には聞かせたことのない明るい声をあいつに掛ける


そんなお前を見ても、もう何も感じない
胸が締め付けられることも、嫉妬に狂うこともなくなった


俺の代わりにお前が苦しみ、俺の分までお前が涙を流すから


俺は、お前にそんな思いをさせたかったのか?
俺は、お前にそんな顔をさせることしか出来ないのか?


ただ俺は、俺という存在を、お前に受け入れて欲しいだけなのに













教室にひとり残っていたに近寄り、声を掛けても
相変わらずは震えるだけで顔を上げようとはしない



「今日も行く」



俯いたままのに、そっと耳打ちをするように告げると
はまるで死刑宣告を受けた囚人かのように、顔を青ざめていく


囚われているのは、俺のほうなのに
罪を犯しているのは、俺のほうなのに









そうしてまた俺は、過ちを繰り返す



















061207