あいつの、への想いを知ったとき


足元が崩れ落ちて
目の前が真っ暗になった


あの時から俺はずっと、闇の中で囚われたままや










目も眩むような










「侑士!一緒に帰ろうっ」



笑顔で走り寄って来る、愛しい彼女



「ああ。いつも待たせてすまんな」



そう言うと、は恥ずかしそうに「私が待っていたいんだから、いいんだもん」と笑う
なんて愛らしい


こんなにも、彼女は純粋なのに
こんなにも、俺は想われているのに



「あのね、それで休み時間にね」



の軽やかで滑らかな声にも、俺はずっと上の空


お前はいつも、俺の隣りにいてくれるのに
お前はいつも、俺に笑いかけてくれているのに


一緒にいればいるほど、お前を失う恐怖で身動きが取れなくなる


あんな奴に、どうして対抗すればええんや
あんな奴に、俺が敵うわけないやん


今、こうやって俺を見上げていてくれる
どうせ、いつかは、きっと



「侑士?どうしたの……?」
「すまん。なんでもないよ」



心配そうに俺の顔を覗き込んで来たの頭をくしゃっと撫でてやると
はくすぐったそうにはにかんで笑う


俺の一挙一動に反応して、答えてくれる


こんな俺の闇にも、お前はついて来てくれる?
こんな俺の闇を知っても、お前は逃げ出さない?










誰もいない教室に、あいつとの姿を見た


別に、触れ合っていたわけではない
別に、笑い合っていたわけではない


ただ、言葉を交わしていただけ
たったそれだけなのに


それだけで、もう










「侑士!待ってよ!」



無言で足早に廊下を歩く俺の後を、は一生懸命追い駆けてくる



「ねえ、侑士!なんで?なんで怒ってるの?私何かした?」



何もしとらんよ
お前は、何も



「ねえ!侑士ってば!」



どうすればいい、俺は


俺は、闇に飲み込まれたまま
このまま堕ちて逝くしかないのか


真っ直ぐ前を見据えて歩いていると、俺を追い駆けていたの気配がふと消えた


立ち止まって振り返ってみると、は立ち止まり俯いて顔を拭っていた






そっとに近づき、上から声を掛ける



「ゆう、し……やだよ……きらいに、ならないで……」



俺は、一体何を


必死に涙を抑え込もうとするの腕を掴むと、俺は無言で歩き出した



「ゆ、ゆうし……?」



の腕は、こんなに細かったか


誰もいない空き教室にを押し込めて乱暴に扉を閉めると
そのままの柔らかい唇に自分のそれを押し付けた


片手での身体を抱きかかえ
もう一方の手での頭を押さえつけ


噛み付くように、吸い上げるように
の口内を、全て俺で埋め尽くすように



「はあ……ゆう、し……」



力の抜けたの身体を、そのまま強く、折れてしまいそうなほど強く、抱きしめた







いつも一緒にいたはずなのに、もう長いこと彼女の温もりに触れていなかった気がする



、好きや」



の首元に顔を埋め、呟くように言った
に言い聞かせると言うよりも、自分自身に言い聞かせるようにして



「俺はずっとお前の傍にいたい。お前やないと、あかんのや」



段々と、声が掠れてきた


情けない男や
好きな女の前で、こんな醜態晒すなんて


震える俺の背中に、の小さくて、温かい手がそっと添えられた


そうして、優しく撫でるように俺を包み込む
大きな赤ん坊をあやすように



「私は、侑士がいてくれれば、それでいい」



俺の耳に入ってきたのは、穏やかな、囁くような声










ああ、やっと分かった


俺は、闇の中にいたんやない










俺はずっと光に包まれていたのに、その光に目が眩んで、何も見えなくなってたんや




















061206