お前が見ているのはあいつで あいつが見ているのもお前で なら俺は、どうすればいい? いっそのこと、とっとと付き合ってしまえばいいのにとすら思う。 俺からすれば阿呆らしくなるくらいに分かりやすいふたりなのに、当の本人たちは全くお互いの気持ちに気付いていない。 第三者の俺だけがそのことに気付いているのは、俺が「詐欺師」だなんて呼ばれるほどに他人の心を読むことを得意としているせいではない。 ただ単に、俺がそれだけのことを見ているというだけのこと。 が見ているのは、いつも俺の傍にいる別のヤツだって言うのに。 情けないほどに。 「柳生は好きなヤツとかおらんのか」 「なんですかいきなり」 「いや、実は俺、のことが好きなんじゃ」 「……さん、ですか」 「ああ。柳生はのこと、どう思っとるんじゃ?」 「さんは……素敵な女性ですよ。大切な友人です」 穏やかに笑いながら「仁王くんとさんならきっとうまくいきますよ」なんて的外れのことを言うお前は、今何を思っている? その眼鏡の奥の瞳で、どんな目をして俺を見ている? 頭が悪いわけでも勘が悪いわけでもないのに、どうして分からないんじゃ。 自分の好きな女が、本当は誰を想っているのか。 「そか……友人か。あはは、柳生くんらしいね」 眉を寄せながら苦々しげに無理やり笑顔を作るの横顔は、他のどんな美人な女の子よりも綺麗に見える。 そうしてにそんな悲痛な表情をさせているのはあいつではなく俺だということに、歪んだ悦びが生まれる。 「ま、大切なってついていただけでもよしとする、かな」 「無理せんでよか。が望んでいるのは、大切な友人なんかじゃないじゃろ」 「そう、だけど……」 「まだもがいてもいいんじゃなか?もうちょっと頑張ってみんしゃい」 「もう、無理だよ……。もう頑張れない……。」 の長い睫が小刻みに震え、その先端に透明な雫が落ちていく。 その涙で、の心からその想いをかき消してしまえばいいのに。 その涙が、汚い俺の心も洗い流してくれればいいのに。 そうして雨が止み、虹の先で待っている綺麗な俺をが見つけてくれれば。 「ごめん仁王。ちょっとだけ、肩貸して……」 「胸じゃなくてよか?今ならもれなく熱い抱擁付きじゃよ」 「あはは、遠慮しとくよ」 「なんじゃ、つまらんのう」 俺の肩に小さい頭を預けるの震える肩を抱こうとして伸ばした手は宙を彷徨い、一瞬躊躇った後 の頭の上に軽く乗せてやった。 その頭の中に、心の中に、俺はちゃんと存在しているのだろうか。 好きな子の笑顔が見れればそれでいいなんて、俺はそんなに出来た人間じゃない。 あいつと一緒に笑うを見るくらいなら、お前はずっと俺の横で泣いていればいいんだ。 俺がいくらでも傷つけてやるから。 070318 |