目が覚めると、柔らかい温もりで満ちたベッドの中。
後ろをちらりと振り返ると、恋人がこちら顔を向けたまま美しい顔を崩すことなく寝息を立てていた。
彼を起こさないようにそうっとベッドから抜け出そうとすると、突然背後から回された腕に腰を強く引き寄せられ、思わず小さく悲鳴を上げてしまった。










グッドモーニング・ハニー










再びベッドの上へと引き戻され名前を呼ぶ声に肩越しに後ろを向けば、先ほどまで細やかな睫が伏せられていた碧い瞳を開けた彼が横たわったまま、不機嫌そうな顔を浮かべいてた。


「起きてたんだ景吾。おはよう」
「・・・どこ行くんだよ」
「喉渇いたから、お水飲もうかなって。景吾もいる?」
「いらねえから、ここにいろよ」


寝転んだまま後ろを振り返る無理な体勢のまま彼の問いかけに応えると、彼は私のお腹の腕組まれた手の力をさらに強めた。
そんな彼の様子を不思議に思いながら、片肘を突いて彼の腕の中のわずかな隙間をつき、体を反転させて彼と正面から向き合った。
でも彼は、いつものようにその深い眼で私を見つめ返してはくれなくて。
眼を伏せたまま、私の顎の下に額を寄せて来た。


「どうしたの?」
「どうもしねえよ」
「恐い夢でも見た?」
「ハッ・・・・そんなガキじゃねえよ」


彼の柔らかい髪の中に手を差し込みながら問いかけると、いつものように相手を突き放しひとりだけ先を歩くような、強い声が返って来た。
けれど、そんな言葉とは裏腹に彼はさらにぎゅうっと私を抱きしめる力を込めると、私の胸元に顔を埋めて来た。
それはいつものように、いやらしく私を動揺させて反応を楽しむような感じではなくて。


「でもこれじゃあ、本当に大きな赤ちゃんみたいだよ?」


誰よりもプライドが高い彼の自尊心を傷つけないよう、理由を話そうとしない彼を追い詰めないよう、出来るだけ優しい声になるように彼の頭を抱えながら言葉を吐いた。
いつも私が必死に追いかけて、精一杯背伸びして見上げている彼が今、私の腕の中にいる。
誰よりも高い位置にいる彼が、誰にも見せない弱い姿を私にだけ曝け出してくれる。
愛しくて、嬉しくて。


「赤ん坊がこんなことするかよ」


すっかり油断していたころに、いつもの彼が戻ってきてしまったみたい。
その眼は、他人を吸い込んでしまいそうないつもの光を取り戻していて。
口の端を片方だけ上げながら艶やかな舌を差し出してくる彼の姿は、さっきのいじらしい姿が幻だったんじゃないかと思うくらい。


「やっ・・・・・・もう。手がつけられないのは、赤ちゃんと一緒だよ」
「フン。そんな憎まれ口、叩けなくしてやるよ」


いつの間にか私の上に覆いかぶさって妖艶に笑う彼の姿はもう赤ちゃんなんかではなくて、すっかり私の恋人の跡部景吾の姿に戻ってしまった。
でもね、私は手のかかる赤ちゃんだって嫌いじゃないよ。
景吾が何を思って、何を不安に思っているのか、私にはまだちゃんと分からないけれど・・・・。
私だけがそんな景吾を救ってあげることが出来るんだって、自惚れてしまっているんだ。
好きな人に自分の存在が必要とされているってこと。
これほど幸せなことって、きっとないから。














2007.04.13 Thanks for your crap!!